犬の食事で見落としやすい視点とは?
愛犬の食事は、「ドッグフードをあげていれば大丈夫」と考えるだけでは見落としてしまうことがあります。
それは、
「愛犬の体を作る材料となる食べ物は、愛犬の健康をより良いものにするという視点に立って考えるとき、一体どういったものが良いものといえるのか?」
という点についてです。
大切なのは、市販フードか手作りご飯かを単純に比べることではなく、その食事が愛犬の健康な体を作る材料として本当にふさわしいのかを、根拠をもって見直すことです。
この記事では、ドッグフードと手作りご飯について、私が根拠を調べて実践してみてわかったことを、加工度、酸化、保存状態、水分量、原材料、栄養設計という視点から整理し、お届けします。
私が市販フードに感じた六つの懸念点
私は以前、市販のカリカリのドッグフードを愛犬に与えていました。総合栄養食であれば必要な栄養は取れるし、安心して続けられるものだと考えていた時期もあります。
実際、市販フードには、栄養設計されていること、保存しやすいこと、毎日続けやすいことなど、大きなメリットがあります。
ただ、犬の健康や食事について学ぶほど、市販フードを無条件に最善の食事として扱うことには違和感を持つようになりました。
特に気になったのは、加工度、酸化、保存状態、水分量、原材料、栄養設計の六つです。
まず、ドライフードはかなり加工された食品です。原材料を混ぜ、加熱し、成形し、乾燥させ、油脂や風味づけを加え、袋に詰めて流通します。保存しやすく扱いやすい一方で、加熱や乾燥などの工程を経ることで、元の食材そのものとは違う状態になります。この状態で果たして食材本来の栄養がどれほど残っているのか、加工によってどのように変化しているのかは、犬の食事を考えるうえで無視できない視点だと考えています。
次に、酸化の問題です。市販のドッグフードには油脂が含まれているものが多くあります。油脂は、空気、光、熱、時間の影響で酸化します。ドライフードは製造されてすぐに食べるものではなく、工場で作られ、保管され、流通し、店頭や倉庫に置かれ、家庭に届きます。さらに開封後も家庭で一定期間保存されます。その過程で、油脂や原材料がどれほど酸化した状態になっているのかを調べた論文では一部のドッグフードは酸化していたことが確認されており、保存状態が酸化してしまうかどうかに影響していると話しています。酸化したものを摂り続けることが、健康に悪影響があるのでは?と感じています。
保存状態も大きな問題です。ドッグフードは、作られた瞬間に犬の口に入るわけではありません。輸送され、倉庫で保管され、店頭に並び、家庭でも開封後しばらく保存されます。その間、どのくらいの温度で保管されていたのか、湿気や光の影響はどうだったのか、開封後にどれくらい空気に触れていたのか。こうしたことによって、先ほどの酸化する状態と密接に影響を受けるので、犬の健康を考えるうえで見落としてはいけない部分だと考えて、懸念点の一つとして挙げさせていただきました。
また、水分量も大切です。ドライフードは、その名前の通り水分量が少ない食べ物です。これは食材本来の状態とは異なるため、どれほど食材本来の状態で食べることが出来ているのか?という点で考えると、水溶性の栄養やタンパク質などは編成している可能性があると感じています。その理由として、例えば、料理をするときにホウレンソウなどの野菜は、煮る時間に比例して栄養が流出してしまうという報告があり、お肉のタンパク質にも温度による影響で変性してしまうことを指摘する文献もあります。これらを踏まえると犬の健康や病気の予防を考えるうえで、食材本来の水分量は食材本来の栄養状態を知る一つの指標ともとれる、大切な視点の一つだと考えています。
原材料についても、慎重に見る必要があります。たとえば「ヒューマングレード」と書かれている商品もありますが、どんなに元の食材が良くても、加工され、保存され、油脂が加わり、長期間流通する中で、最終的に犬の体に入る時にどのような状態になっているのかは別の問題です。また、人の食べ物と違って犬の食べ物は原材料表示が法律であまり厳密にルール化されていませんので、すべての品質や保管状態が見えるわけではありません。
そして、栄養設計です。市販フードが栄養設計されていることは大きな利点です。犬に必要な栄養を安定して取れるように作られている点は、市販フードのメリットです。ただし、栄養が設計されていることと、そのご飯の栄養状態が良質なものであることとイコールとは言えません。栄養基準を満たしていてもここまでの懸念点の状態を考慮して考えると、超々加工されたフードが、犬の体を作るとても重要な材料である質の高い食材だと、果たして言えるのか?という風に考え、愛犬の健康に対して懸念を抱かざる負えなくなりました。
実際に食事を見直して感じたこと
そんな私はこうした点を学びながら、愛犬の食事をカリカリのドッグフードから、栄養設計を意識した手作りご飯へ少しずつ見直してきました。
その結果として、もうすぐ11歳になる愛犬は、今年3月の健康診断でも引っかかる項目は一つもなく、結果は良好でした。
もちろん、これは私の愛犬の一例であり、「手作りご飯にすればすべての犬が健康になる」と証明できるものではありません。
ただ、実際に学びながら食事を見直し、愛犬の便、皮膚、毛艶、体重、食欲、日々の様子を見てきた経験から、犬の食事を市販フード任せにするのではなく、飼い主自身が根拠をもって見直していくことには大きな価値があると感じています。
手作りご飯を選択肢に入れる理由
その中で、私は栄養設計された手作りご飯を、愛犬の健康をより良くするための重要な選択肢として考えるようになりました。
手作りご飯には、食材を自分で選べること、調理後に新鮮な状態で与えやすいこと、その子の体調に合わせて調整しやすいことという利点があります。
ただし、手作りなら何でも良いわけではありません。肉だけを多くする、野菜だけを増やす、同じ食材ばかり与える、感覚だけで量を決めるといった自己流の手作りご飯は、栄養バランスを崩す可能性があります。
大切なのは、ドッグフードを無条件に信じることでも、手作りご飯を万能視することでもありません。
愛犬に少しでも長く、元気なままそばにいてほしいと願うなら、毎日の食事を「この子の健康な体を作る材料としてふさわしいか」という視点で、一度見直してみる価値はあるのではないかと私は考えています。
参考文献・参照資料
本記事は、犬の食事、ドッグフードの加工度・保存状態・酸化、加工由来物質、手作り食の栄養設計に関する獣医学・動物栄養学系の研究を参考に作成しています。
本文では、各研究の内容を確認したうえで、飼い主向けに要約・解説しています。論文本文、図表、画像の転載は行っていません。詳細な研究内容については、必ず各原著論文をご確認ください。
なお、本記事は一般的な学習・情報提供を目的としたものであり、個別の犬に対する診断、治療、療法食の変更、投薬判断を目的としたものではありません。
疾患がある犬、療法食を使用中の犬、成長期・妊娠授乳期・シニア期・投薬中の犬については、必ず獣医師または獣医栄養学に詳しい専門家へご相談ください。
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補足
本記事では、上記の研究をもとに以下の点を区別して解説しています。
・比較的、根拠から言いやすいこと
・現時点ではまだ断定まではできないこと
・個別の犬によって判断が変わること
・獣医師への相談が必要なこと特に、手作り食については「手作りなら何でもよい」と考えているわけではありません。
栄養設計されていない自己流の手作り食は、栄養不足や過剰のリスクがあります。
このシリーズで扱うのは、なんとなくの手作り食ではなく、犬の状態に合わせて栄養設計・観察・調整を行うための考え方です。
